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■宝塚記念のファン人気投票

 ファン人気投票によって出走馬が決定される宝塚記念。極端な言い方をすれば、シンボリルドルフだろうがテイエムオペラオーだろうが、人気が無ければ勝つどころか出走する事すら出来ない。実際には、ファン投票選出の出走枠が定められている為、不人気な“最強馬”が除外される事は無いが、こうした規定が存在する事自体、ファン人気投票による出走馬決定の不合理性を承知の上でこの競走を実施している事になる。
 いずれにしても、出走の可否をファン人気投票に委ねるという基本的な主旨から考えて、個々の戦歴について検証する事はさほど有効的とは思えない。
 ファン人気投票の順位や当日の単勝人気オッズからアプローチする方法についても、効果の有無はともかく、個人的にはさほど興味が湧かない。もしもハルウララが中央に転厩すれば、ファン人気投票も単勝オッズも1番人気になる可能性がある。しかし、あの馬に負ける中央のオープン馬など恐らく存在しない。どんなに人気投票を獲得しようが、どんなに単勝人気になろうが、勝てない馬は勝てない。ただ、それだけの話に過ぎない。
 馬主・調教師・生産者・血統についても同じような事が言える。社台生産のサンデーサイレンス産駒を誰が所有し、誰が調教しようとも、出走の可否をファンの人気投票数に委ねている事に変わりはない。
 そうすると、勝ち馬を予想するための要素は「騎手」と「各出走馬の世代」だけしか残らない事になる。人気や戦歴に関係なく騎手の乗り替わりは自由であり、出走が確定した馬の中から好きな馬を選べば良いし、全ての世代が3歳クラシックを経ている以上、人気馬不在の世代という事も絶対にあり得ない。したがって、特定の騎手を勝たせる、もしくは何歳馬を勝たせるという意思が働いた場合、ファン人気投票のような不確定要素によって結果が左右される事はない。
 では、出走するのもしないのも人気投票の結果次第という状況下、宝塚記念に参加した陣営がそれによって得るもの、失うものとは何だろう。例えば、宝塚記念の好成績を残した騎手の場合、春季番組においても、ファン人気投票で選ばれるほどにお手馬を活躍させているはず。(乗り替わりのスポット騎乗の場合をのぞく)
 そうすると、宝塚記念終了後の2歳戦でも騎乗依頼が増え、次年度の3歳クラシックに対しても期待が高まるはずだ。しかし実際には、宝塚記念で好成績を残した騎手たちは、翌年の3歳クラシックではお手馬に恵まれていないケースの方がむしろ多い。特に、グレード制が導入された84年の宝塚記念の場合、8位以内に入賞した騎手たちの中で、翌年の皐月賞に騎乗できた騎手はただの一人もいないのである。
 下記の表は、宝塚記念で8位内入賞した騎手が翌年の皐月賞・ダービーで残した成績である。(皐月賞・ダービーのいずれも9着以下、もしくは騎乗していないケースは省略している)
 その多くがリーディングを争うほどの騎手であるだけに、翌年のクラシックでも活躍するケースも決して少なくない。しかし、推薦委員会が設置されていた95年以前において、宝塚記念にスポット騎乗した場合を除き、シーズンを通して決まったお手馬でクラシックを戦った例は、89年のクラシックをウイナーズサークルで戦った郷原洋行たった一人しかいない。(表中※印:94年フジノマッケンオー、95年ジェニュインはいずれもシーズン途中で乗り替わり)
 87年から95年までの宝塚記念に騎乗し、8位内に入ったのべ72人のうち、たった1人。この年、昭和天皇が崩御し、次年度の天皇賞・春の開催自体が不透明な状態で行なわれ、春季番組のGTレースがことごとく変則的な勝ち馬を生んだ89年に起きた1/72の偶然(?)である。

宝塚記念 翌年の皐月賞 翌年のダービー
87 3着 ニシノライデン 田原成貴 −− 騎乗なし 5着 ファンドリデクター
6着 フレッシュボイス 柴田政人 5着 トウショウマリオ 3着 コクサイトリプル
88 2着 ニッポーテイオー 郷原洋行 2着 ウイナーズサークル 1着 ウイナーズサークル
4着 ランドヒリュウ 河内 洋 乗替 −− 騎乗なし 5着 ロングシンフォニー
7着 ランニングフリー 菅原泰夫 −− 騎乗なし 2着 リアルバースデー
89 1着 イナリワン 武  豊 12着 ナリタハヤブサ 5着 ハクタイセイ
90 3着 ヤエノムテキ 岡部幸雄 16着 レガシーオブゼルダ 2着 レオダーバン
4着 イナリワン 柴田政人 18着 アフターミー 3着 イイデセゾン
91 6着 ミスターシクレノン 角田晃一 乗替 3着 スタントマン 5着 スタントマン
92 7着 ホワイトアロー 田原成貴 9着 ユジユートピアン 5着 マイシンザン
93 1着 メジロマックイーン 武  豊 3着 フジノマッケンオー ※ 4着 フジノマッケンオー ※
4着 セキテイリュウオー 南井克己 乗替 1着 ナリタブライアン 1着 ナリタブライアン
8着 ニシノフラワー 河内 洋 −− 騎乗なし 7着 マルカオーカン
94 1着 ビワハヤヒデ 岡部幸雄 1着 ジェニュイン    ※ 2着 ジェニュイン    ※
2着 アイルトンシンボリ 藤田伸二 乗替 8着 ダイタクテイオー 6着 ダイタクテイオー
95 1着 ダンツシアトル 村本善之 5着 ダンディコマンド −− 騎乗なし
3着 エアダブリン 四位洋文 乗替 1着 イシノサンデー 6着 イシノサンデー
5着 アイルトンシンボリ 藤田伸二 乗替 17着 タヤスダビンチ 1着 フサイチコンコルド

 JRA番組企画部はダービーに至る3歳クラシックの整備に関し、2回中山をそのスタート地点と定めている。ダービーを本気で狙う有力な騎手にしてみれば、お気に入りの馬で2回中山に参加する事が番組編成の意志に沿う為の義務とも言えるだろう。実際に、多くのダービー馬は2回中山から始まる皐月賞TRをサボったりはしていないし、そこから始まるクラシックシーズンの中からダービー馬が生まれる事は、たとえ何頭かの例外があったとしても、新たなダービー馬が生まれるスタンダードである事に変わりはない。
 しかし、前年の宝塚記念で賞金を獲得したスタージョッキーのべ72人中71人は、皐月賞やダービーを勝つどころか、2回中山のスタート地点に立つ事すら出来ないでいる。何度も繰り返すが、この数字はスタージョッキーが残した数字だ。クラシックでの騎乗依頼がない中堅以下の騎手の話ではない。宝塚記念に選ばれたアイドルホースの主戦騎手が半年後の乗り鞍に困っている状況がそこにある。
 ここまでは、宝塚記念の結果から見た翌春のクラシックへの影響を紹介した。それとは逆に、3歳クラシックから遡った前年の宝塚記念での成績という見地で両レースの関係を確認すれば、先に書いた推測が、より鮮明な現実として確認する事が出来る。下記の表を見て頂ければ一目瞭然。8位以内で賞金を獲得したかどうかなどという話ではない。
 98〜00年の3年連続ダービー制覇をハナ差で逃した武豊、先述の郷原洋行を除き、皐月賞・ダービーの勝利騎手すべてが、前年の宝塚記念に騎乗なし、もしくは乗り替わりのスポット騎乗なのである。

 ちなみに、97年の宝塚記念と98年の皐月賞・ダービーについては、3レースに騎乗した騎手が面白い偶然を生んでいるのでオマケに示しておく。どのような仕組みがこのような結果を生むのかよく解からないが、3歳戦(ダービー)と古馬競走(天皇賞・春秋)との壁を打ち破った唯一の馬スペシャルウイークのドラマが、同馬がデビューする半年前から始まっているという事になる。

ダービー騎手&前年宝塚記念の実績
皐月賞 ダービー
1着馬 騎乗騎手 前年・宝塚 1着馬 騎乗騎手 前年・宝塚
84 シンボリルドルフ 岡部幸雄 騎乗なし シンボリルドルフ 岡部幸雄 騎乗なし
85 ミホシンザン 柴田政人 騎乗なし シリウスシンボリ 加藤和宏 騎乗なし
86 ダイナコスモス 岡部幸雄 騎乗なし ダイナガリバー 増沢末夫 騎乗なし
87 サクラスターオー 東 信二 騎乗なし メリーナイス 根本康弘 騎乗なし
88 ヤエノムテキ 西浦勝一 騎乗なし サクラチヨノオー 小島 太 騎乗なし
89 ドクタースパート 的場 均 騎乗なし ウイナーズサークル 郷原洋行 2着 ※天皇崩御
90 ハクタイセイ 南井克己 騎乗なし アイネスフウジン 中野栄治 騎乗なし
91 トウカイテイオー 安田隆行 騎乗なし トウカイテイオー 安田隆行 騎乗なし
92 ミホノブルボン 小島貞博 騎乗なし ミホノブルボン 小島貞博 騎乗なし
93 ナリタタイシン 武  豊 乗替12着 ウイニングチケット 柴田政人 騎乗なし
94 ナリタブライアン 南井克己 騎乗なし ナリタブライアン 南井克己 騎乗なし
95 ジェニュイン 岡部幸雄 乗替1着 タヤスツヨシ 小島貞博 騎乗なし
96 イシノサンデー 四位洋文 乗替3着 フサイチコンコルド 藤田伸二 乗替5着 ※番組改革
97 サニーブライアン 大西直宏 騎乗なし サニーブライアン 大西直宏 騎乗なし
98 セイウンスカイ 横山典弘 乗替5着 スペシャルウイーク 武  豊 1着
99 テイエムオペラオー 和田竜二 騎乗なし アドマイヤベガ 武  豊 3着
00 エアシャカール 武  豊 2着 アグネスフライト 河内 洋 乗替11着 ※番組改革
01 アグネスタキオン 河内 洋 乗替2着 ジャングルポケット 角田晃一 騎乗なし
02 ノーリーズン ドイル 騎乗なし タニノギムレット 武  豊 騎乗なし
03 ネオユニヴァース デムーロ 騎乗なし ネオユニヴァース デムーロ 騎乗なし
04 ダイワメジャー デムーロ キングカメハメハ 安藤勝己


97年 宝塚記念 98年 皐月賞 98年 ダービー
1着 マーベラスサンデー 武 豊 3着 スペシャルウイーク 武 豊 1着 スペシャルウイーク 武 豊
2着 バブルガムフェロー 蛯名正 7着 クリールサイクロン 蛯名正 2着同枠 クリールサイクロン 蛯名正
3着 ダンスパートナー 河内洋 6着 ボールドエンペラー 河内洋 2着 ボールドエンペラー 河内洋
4着 タイキブリザード 岡部幸 1着同枠 ディヴァインライト 岡部幸 11着 タイキブライドル 岡部幸
4着同枠 ナリタキングオー 福永祐 2着 キングヘイロー 福永祐 14着 キングヘイロー 福永祐
5着 ローゼンカバリー 横山典 1着 セイウンスカイ 横山典 4着 セイウンスカイ 横山典
6着 ゼネラリスト 松永幹 4着 エモシオン 松永幹 3着同枠 エモシオン 松永幹


■中長距離競走における世代交代

 ダービーによって3歳チャンピオンが決定し、天皇賞・春によって4歳上のチャンピオンが決定する。そして、その直後から始まる3歳上の古馬競走において、「3歳vs古馬」の戦いが全てのクラスで始まり、1年の締めくくりである有馬記念によって古馬に対する3歳馬のアドバンテージ、もしくはその逆の結果、3歳馬全体の低レベルを証明する事になる。
 もしも3歳世代のレベルが古馬世代のそれを上回るものであれば、その優位性は当然、翌春の天皇賞にも反映される事になる。そして、ハイレベルな3歳クラシックを1年後の天皇賞・春へ持ち込んだ明け4歳馬は、1歳下の世代との戦いを経て、次の有馬記念に向かう。
 このように、世代間の優劣を決する事によって、天皇賞・春を勝つ世代、勝てない世代を決定する繰り返しこそ、JRA古馬競走の本質である。そして、そうした繰り返しには、古馬競走の主役を受け渡す世代交代が行なわれる。古馬競走における宝塚記念の役割がそこにある。
 例えば、94年の古馬競走。天皇賞・春と宝塚記念は4歳馬ビワハヤヒデ。天皇賞・秋も同じく4歳馬ネーハイシーザー。中長距離GTの全てがこの2頭によって占められた事により、この年の古馬競走における4歳馬の優位性は絶対的なものである。しかし、その年の有馬記念を3歳馬ナリタブライアンが勝つ事により、最強世代のはずだったビワハヤヒデを代表とするウイニングチケット世代は、その座を次世代に受け渡す事になる。
 
 春秋の天皇賞と宝塚記念が同世代の馬によって占められる事により、世代交代がスムーズに行なわれ、有馬記念を3歳馬もしくはグランプリ連覇馬が勝つ事により、次の時代が始まる。こうした一連の流れを示すのが下記の表である。

天皇賞・春 宝塚記念 天皇賞・秋 有馬記念
84 −− 枠連万馬券 4歳 カツラギエース 4歳 ミスターシービー 3歳 シンボリルドルフ
86 4歳 クシロキング 4歳 パーシャンボーイ 4歳 サクラユタカオー 3歳 ダイナガリバー
88 4歳 タマモクロス 4歳 タマモクロス 4歳 タマモクロス 3歳 オグリキャップ
91 4歳 メジロマックイーン 4歳 メジロライアン 4歳 プレクラスニー −− 単勝万馬券
92 5歳 メジロマックイーン 5歳 メジロパーマー 5歳 レッツゴーターキン 5歳 メジロパーマー
94 4歳 ビワハヤヒデ 4歳 ビワハヤヒデ 4歳 ネーハイシーザー 3歳 ナリタブライアン
97 5歳 マヤノトップガン 5歳 マーベラスサンデー −− 牝馬 3歳 シルクジャスティス
98 4歳 メジロブライト 4歳 サイレンススズカ −− 7歳馬 3歳 グラスワンダー
99 4歳 スペシャルウィーク 4歳 グラスワンダー 4歳 スペシャルウィーク 4歳 グラスワンダー
00 4歳 テイエムオペラオー 4歳 テイエムオペラオー 4歳 テイエムオペラオー 4歳 テイエムオペラオー
01 4歳 マンハッタンカフェ 4歳 ダンツフレーム −− 代替開催 3歳 シンボリクリスエス
02 4歳 ヒシミラクル 4歳 ヒシミラクル 4歳 シンボリクリスエス 4歳 シンボリクリスエス

 これにより、春秋の天皇賞を同世代の馬が勝つ事、有馬記念を3歳馬が勝つ事が予想される場合、宝塚記念を何歳馬が勝つのかを自動的に予想できる事になる。
 問題は、春秋の天皇賞を同世代の馬が勝つかどうかについてだが、2つの異なる天皇賞が同一世代によって占められる変則性が、前年の有馬記念とジャパンCの結果に左右される事から十分に推測可能となる。

前年・JC 前年・有馬 天皇賞・春 天皇賞・秋
85 CB世代 SR世代 SR4 シンボリルドルフ CB5 ギャロップダイナ
86 SR世代 ←同世代→ SR世代 連覇 SS4 クシロキング SS4 サクラユタカオー 春天:ゾロ
87 外国馬 DG世代 SS5 ミホシンザン DG4 ニッポーテイオー
88 外国馬 DG世代 ゾロ MN4 タマモクロス MN4 タマモクロス 春秋:連覇
89 外国馬 ST世代 MN5 イナリワン ST4 スーパークリーク
90 外国馬 ゾロ MN世代 ST5 スーパークリーク ST5 ヤエノムテキ 秋春:連覇
91 外国馬 ST世代 IF4 メジロマックイーン IF4 プレクラスニー
92 外国馬 ST世代 単万 IF5 メジロマックイーン TO4 レッツゴーターキン 春天:連覇
93 TO世代 IF世代 MB4 ライスシャワー TO5 ヤマニンゼファー
94 MB世代 ゾロ TO世代 WT4 ビワハヤヒデ WT4 ネーハイシーザー 春天:代替
95 WT世代 NB世代 MB6 ライスシャワー WT5 サクラチトセオー
96 外国馬 TT世代 MB5 サクラローレル FC3 バブルガムフェロー
97 外国馬 NB世代 TA5 マヤノトップガン FC4 エアグルーヴ
98 外国馬 SB世代 SB4 メジロブライト NB7 オフサイドトラップ
99 SW世代  ←同世代→ SW世代 SW4 スペシャルウイーク SW4 スペシャルウイーク 春秋:連覇
00 SW世代 ←同世代→ SW世代 連覇 AV4 テイエムオペラオー AV4 テイエムオペラオー 春秋:連覇
01 AV世代  ←同世代→ AV世代 AV5 テイエムオペラオー AF4 アグネスデジタル 春天:連覇
02 JP世代 ←同世代→ JP世代 枠万 JP4 マンハッタンカフェ TG3 シンボリクリスエス 秋天:代替
03 外国馬 代替 TG世代 TG4 ヒシミラクル TG4 シンボリクリスエス 秋天:連覇
04 AF世代 TG世代 連覇