【番組解読】 マイルチャンピオンシップ |
中短距離体系の大幅な見直しがされた84年の年間番組において、もしも古馬短距離GTが安田記念の1レースのみだった場合、そこで生じる具体的な不都合は1つしか考えられない。朝日杯3歳Sや阪神3歳Sを勝った3歳馬(現・2歳馬)が外国産馬だった場合、これらのGTホースが次の目標が無くなってしまう事だ。春のクラシックには出走が不可能、ジャパンCや有馬記念はファン人気投票や競馬会の推薦に委ねるしかない。GT馬がGU・GVを目標にするわけにもいかず、本気で“上”を狙うには1年半後の安田記念まで待たなくてはいけない事になる。ジャパンC創設を含む一連の国際化計画が進む中、84年の番組改革でも外国産馬の出走緩和が計画に含まれており、そうした中でマル外2歳馬にローテーションが整備されていないとすれば、グレード制競馬は初めから不備が生じる事になる。 本来ならば、2歳GT競走は3歳クラシックに向けた重要なレースである事に間違いはない。その点を重視するならば外国産馬やセン馬に出走を認めるべきではない。しかし、それだと外国産馬の出走緩和策に矛盾しまう。つまり、ある年は3歳クラシックを狙う2歳馬の為に、ある年は3歳クラシックに無関係な2歳馬の為に、2歳GT競走は2つの目的で実施されている事になる。後者の場合、次の目標として用意されているのが約1年後に実施されるマイルCSである。裏返して言えば、2歳GTを勝った中短距離強者が、3歳クラシックを経た後にマイルCSを狙う事は番組の主旨に反する事になる。87年阪神3歳Sを勝ち、弥生賞・NHK杯・ダービーで1番人気を集めた88年マイルCSの1着馬サッカーボーイなどは正にこれに当てはまるが、この年に行なわれた変則的な3歳クラシック(皐月賞=東京代替)はあくまでも例外的なものと考えるべき。3歳クラシックで唯一、中距離で行なわれる皐月賞は、3回中山で行なわれてこそ中距離競走としてのレース目的が果たされるはずである。 もちろん、2歳GT競走とマイルCSの関係は同レースが持つ役割の一部分を示すものでしかないが、2歳GT競走の規程変更がマイルCS変則化の要因になっているとすれば、正規のマイルCSが生む1着馬のタイプを探る上でも無視は出来ない。短距離競走全体に番組改革があったとしても、実際の競馬に反映される作業が2歳戦から始まるとすれば、番組改革の成果は1年遅れで現れる事になる。 |
前年・2歳GT&古馬短距離 | 当年・マイルCS | 春〜夏季番組 | 1年間の距離歴・ダート経験 ※3歳戦・有馬・宝塚は除く |
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83 | 84 牡4 ニホンピロウイナー | |||
84 中短距離体系の整備 | 85 牡5 ニホンピロウイナー | 連覇 | ||
85 | 86 牝4 タカラスチール | |||
86 | 87 牡4 ニッポーテイオー | 芝1400〜2000 | ||
87 | 88 牡3 サッカーボーイ | 芝1800〜2000 | ||
88 | 89 牡4 オグリキャップ | 天皇崩御 | 春〜夏季全休 | 地方出身馬 |
89 昭和天皇崩御 | 90 牝4 パッシングショット | 条件戦出走歴 | 芝1200〜2000 ダート経験 | |
90 スプリンターズS=GT化 | 91 牡4 ダイタクヘリオス | 芝1200〜2000 ダート経験 | ||
91 阪神3歳S→阪神3歳牝S | 92 牡5 ダイタクヘリオス | 連覇 | 芝1400〜2000 ダート経験 | |
92 | 93 牝4 シンコウラブリイ | 芝1400〜1800 | ||
93 | 94 牝4 ノースフライト | 芝1400〜1700 | ||
94 | 95 牡6 トロットサンダー | 阪神大震災 | 条件戦出走歴 | 芝1600〜2000 地方出身馬 |
95 | 96 牡4 ジェニュイン | 芝1600〜2000 | ||
96 高松宮杯=GT化 | 97 牡3 タイキシャトル | ダート出走歴 | 芝1400 ダート経験 | |
97 ※※※ | 98 牡4 タイキシャトル | 連覇 | 芝1200〜1600 ダート経験 | |
98 高松宮杯→高松宮記念 | 99 牡4 エアジハード | |||
99 | 00 牡3 アグネスデジタル | 芝1200〜1600 ダート経験 | ||
00 スプリンターズS:開催変更 | 01 牡4 ゼンノエルシド | 条件戦出走歴 | 芝1500〜1800 | |
01 2歳GT=競走名変更 | 02 セ6 トウカイポイント | 長距離出走歴 | 芝1600〜2300 | |
02 | 03 牡4 デュランダル | 芝1200〜1800 |
次に、4歳上馬にとってのマイルCSの役割について考えてみる。先に書いたように、早熟な2歳マイラーの為に秋季マイルGTが必要だとすれば、安田記念を11月開催にする手がある。しかし、春の天皇賞を狙えない世代に用意された安田記念の目的から考えると、春季番組から移す事はできない。春の天皇賞馬が実質的には有馬記念終了時には決定されているように、安田記念馬もレースの半年前には決定済みだからである。阪神大賞典・日経賞など限られた長距離GU競走だけで古馬チャンピオンが決定できるはずがないように、春季番組に行なわれる読売マイラーズCや京王杯SCなどは、安田記念に対してほぼ無力なレースとなっている。安田記念に全く無関係とはいわないが、それらのレースはむしろ半年後のマイルCSと強い関係を持っている。安田記念馬が前年の夏〜秋季番組で決定されているとすれば、残された春季番組で行なわれる古馬短距離競走にも『次の目標』が必要になる。それが、春〜夏季番組で決定されるマイルCSである。 2つの古馬マイルGTが異なる目的で行なわれていない以上、両レースの勝ち馬には何かしらの相違点が無くてはいけない。「重賞解析:安田記念」に書いたように、多くの安田記念馬は真の短距離年間チャンピオンとは評し難い戦歴を持っている。1年間に渡って芝の短距離オープン競走を使い続けた“スペシャリスト”が変則的なレースでしか誕生していないのである。それに対して、番組改正の影響を受けない正規のマイルCS1着馬は、1年間に渡って短距離重賞競走を使い続けた純粋かつハイレベルな短距離ランナーである。 89年:昭和天皇崩御について JRA競馬の最高峰である天皇賞に何かしらの変更があれば、それを目標にする下位の競走にも影響が生じる。特に、89年の初めに昭和天皇が崩御し、翌年の天皇賞開催が不透明な中で行なわれた89年の全てのレースは、目標を持たないままに実施された事になり、本来の役割を失った変則的なものである。 95年:阪神大震災について 1月に発生した震災によって阪神競馬場が被害を受けた事により、春季番組の阪神開催は全てキャンセル。1着馬選定作業のしょっぱなから予定外な事態になれば、従来の選定作業から生まれる1着馬とは異なるタイプが選ばれて当然である。3〜5歳世代によって争われるマイルCSを6歳馬が勝つ事自体、選定作業が全く機能していない事を証明している。 97年:高松宮杯の競走名変更について 高松宮殿下が死去した後も『高松宮杯』と称していた事に対し、当の高松宮家からも苦情が出ており、遅かれ早かれ『高松宮記念』への競走名変更は予定されていたはずである。にもかかわらず、競馬会がそれを先送りにしたのは、96〜97年の高松宮杯は暫定的なものでしかないと解釈できる。 |
84年の番組大改革で実施された中短距離競走の整備。中でも最大の変更点は、日本競馬の最高峰である東西の天皇賞のうち、秋の天皇賞の距離を短縮し、整備された中短距離競走の頂点に据えた点。これにより、長距離競走の天皇賞・春と中短距離の天皇賞・秋という2つの頂点とする古馬競走が完成される事になる。 もっとも、安田記念やマイルCSの短距離GTと天皇賞・秋との関係は、ダービーや菊花賞を勝った馬が天皇賞・春を目指す長距離競走のそれとは大きく異なる。下位に位置する安田記念やマイルCSの勝ち馬が次の目標として天皇賞・秋を目指すというよりは、天皇賞・秋を勝った世代がそれ以降の中短距離競走を席巻するイメージが強い。大まかに言えば、天皇賞・秋を勝った世代から同年・マイルCSの1着馬が生まれ、長距離の同年・有馬記念を負けた後、翌年・安田記念を勝つという具合に、先に頂点が決定し、続いて下位のG1が決定する流れである。こう書いてしまうと馬鹿げた話になるが、実際のところ、芝2000bの天皇賞・秋につながるGU・GV競走はいくらでも用意されているのに対し、マイル以下の短距離GU・GVについては現在でも十分に整備されていない。 長距離競走にせよ中短距離競走にせよ、世代間の優劣には有馬記念の結果が関係し、それは番組改定の影響を反映させるものである。そうすると、先に書いたように天皇賞・秋を勝った世代が翌年・安田記念までをも勝ち、中短距離GT完全制覇をするとは必ずしも言えない。しかし、そうした影響を受けないマイルCSに関しては、天皇賞・秋を勝った世代にそのまま同調する。3歳馬が天皇賞・秋やマイルCSを勝つケース、馬齢負担斤量規程対象を超える高齢古馬(春季番組は7歳以上の馬、秋季番組は6歳以上)が勝ったケースを除くと、唯一の例外は93年だけである。 歴代の秋の天皇賞馬のうち、同年のマイルCSと翌年の安田記念を連勝した馬はニッポーテイオー以外にいないが、中短距離王者である秋の天皇賞馬としては、勝って当たり前のレースを勝っただけの話に過ぎない。多くの秋の天皇賞馬は、ジャパンCや有馬記念で敗北の道を歩むのみである。ニッポーテイオーと同世代のダービー馬ダイナガリバーは、ゾロ目の菊花賞で2着になった後、3歳の有馬記念を勝利。全世代を通じて長距離最強馬の座に就いたも同然であったが、翌春の天皇賞を勝つ事は出来なかった。理由は何であれ、こうした世代が天皇賞・春という目標を失った時こそ、ニッポーテイオーのような中短距離ランナーがもう一つの頂点を目指す。 |
年 | 秋天皇賞 | マイルCS | |||
84 | CB4 ミスターシービー | CB4 ニホンピロウイナー | |||
85 | CB5 ギャロップダイナ | CB5 ニホンピロウイナー | |||
86 | SS4 サクラユタカオー | SS4 タカラスチール | |||
87 | DG4 ニッポーテイオー | DG4 ニッポーテイオー | |||
88 | MN4 タマモクロス | ST3 サッカーボーイ 3歳馬 | 3歳世代:皐月賞代替開催 | ||
89 | ST4 スーパークリーク | ST4 オグリキャップ | |||
90 | ST5 ヤエノムテキ | ST5 パッシングショット | |||
91 | IF4 プレクラスニー | IF4 ダイタクヘリオス | |||
92 | IF5 レッツゴーターキン | IF5 ダイタクヘリオス | |||
93 | TO5 ヤマニンゼファー | MB4 シンコウラブリィ | |||
94 | WT4 ネーハイシーザー | WT4 ノースフライト | |||
95 | WT5 サクラチトセオー | MB6 トロットサンダー 6歳馬 | |||
96 | FC3 バブルガムフェロー 3歳馬 | TA4 ジェニュイン | 3歳世代:ダービー日程変更 | ||
97 | FC4 エアグルーヴ | SB3 タイキシャトル 3歳馬 | |||
98 | NB7 オフサイドトラップ 7歳馬 | SB4 タイキシャトル | |||
99 | SW4 スペシャルウイーク | SW4 エアジハード | |||
00 | AV4 テイエムオペラオー | AF3 アグネスデジタル 3歳馬 | 3歳世代:ダービー日程変更 | ||
01 | AF4 アグネスデジタル | AF4 ゼンノエルシド | |||
02 | TG3 シンボリクリスエス 3歳馬 | AV6 トウカイポイント 6歳馬 | |||
03 | TG4 シンボリクリスエス | TG4 デュランダル | |||
04 | NU4 ゼンノロブロイ |