【番組解読】桜花賞について

 現在、2歳戦に編成される牝馬限定戦にオープン特別はひとつも用意されていません。過去には95年11月の萩ステークスが“この年だけ”牝馬限定戦で実施されていますが、JRAが提供する87年以降のデータではこのレース、たった一度だけ。
 重賞競走については、阪神JF・ファンタジーS・フェアリーSの3重賞が牝馬限定戦で実施されていますが、いずれもグレード制導入以降に新設されたもの。条件戦では赤松賞・サフラン賞・りんどう賞の特別競走3レースのみ(94年までは白菊賞が牝馬限定で実施)。一般競走の牝馬限定競走はひとつも番組に組まれていません。
 いずれにしても、オープン競走だけでなく、条件戦についても、2歳戦前半に生まれた牝1勝馬を受け入れるに十分な競走数は用意されてはいません。つまり、2歳戦前半(=牡牝同斤量)で楽に勝ちあがった牝馬たちは、2歳戦後半に入ると出走するレースが不足し、牡馬相手に苦戦を強いられるケースが多くなるという事です。

 ちなみに、牡牝“同斤量”で出走する2歳前半は、牝馬にとって不利な時期だとイメージする方がいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。牡馬よりも1`軽い斤量で出走する2歳後半や、2`軽い斤量で出走する3歳以降に比べると、2歳前半に牝馬が牡馬に勝つ確率の高さに驚くと思います。(参考資料「新馬戦 2006-2007」※芝のみ)

 いずれにしても、桜花賞を戦歴面で検証する場合、判断材料となる牝馬オープン競走が少ない2歳戦よりも、牝馬クラシックが本格化する3歳春季番組に重点を置くのは当然。しかし、実際に競馬番組を消化する調教師らサークル側が、2歳戦を抜きにして桜花賞選出の作業を進めているとはとても考えられません。かといって、レース数が乏しい2歳牝馬重賞競走や牝馬500万下条件戦だけでどうなるものではありません。
 だとすれば、注目すべきレースは新馬戦、もしくは未勝利戦という事になります。もちろん、牝馬限定戦以外のオープン競走で桜花賞選出を進める方法も不可能ではありませんが、歴代の桜花賞馬の戦歴を見る限り、その可能性は無いと考えていいでしょう。

 話は変わりますが、つい最近まで実施されていた、同一開催内であれば何度でも新馬戦に出走できるという規定。一見不自然とも思えるこのルールのメリット、皆さんは何だと思いますか?
 例えば、3頭の優秀な2歳馬が1回函館でデビューしたとします。1番強い馬と2番目に強い馬が第1週、3番目に強い馬が第4週にデビューした場合、第1週の新馬戦は1番強い馬が勝ち、第4週の新馬戦は2番目に強い馬が折り返しで勝つ事になる。対して、現行の新馬戦規定の場合だと、1番強い馬と3番目に強い馬が1回函館デビュー組を代表する事になります。
 つまり、旧規定の新馬戦規定であれば、高い資質を持つ2歳馬を開催のはじめにデビューさせる事により、1回函館デビュー組の質をアップできる事になります。新旧どちらのルールが適切であるかはともかくとして、各開催場の新馬戦でどのような馬が勝ち上がり、その後のレースでどれだけの実績を残すかにより、開催場間の優劣を示す事になります。

 実際には、旧ルールの新馬戦は単に、競走馬資源が不足していた時代の名残りなのかもしれません。しかし、だとすれば尚更の事、未デビュー馬をどれだけ多く集めて開催できるかという、各開催場の力関係を図る指標として新馬戦をとらえる事ができます。簡単にいえば、1回函館新馬戦勝ちのダービー馬が誕生すれば、そのシーズンの1回函館は他の開催場よりもハイレベルだったという単純な話です。
 一方、未勝利戦にはそうした役割がありません。もしも先述の3番目に強い馬が、次開催2回函館の未勝利戦を勝ち、その後にダービーを勝ったとしても、その結果から2回函館がハイレベルだったという評価は生まれません。ダービー馬を輩出した2回函館よりも、同馬が負けた1回函館の方が高いレベルだったという事になり、同世代のチャンピオンであるダービー馬のキャリアとしては全く相応しくない。そうすると、2歳戦全体の番組が正しく機能しなかった事になり、3歳クラシック開催が失敗に終わったという見方にもつながります。ダービー馬が新馬戦勝ちなのか未勝利戦勝ちなのかには、そうした重大な意味合いが込められているのです。

 それでは、桜花賞の場合はどうか。3歳クラシックの本流が中長距離で行われる中、桜花賞だけが短距離で実施されるにもかかわらず、ダービー馬を輩出した開催から同時に桜花賞も生まれる事がもしもあれば、各開催間に不平等が生じる事になります。
 大企業の労働組合的な存在であり、かつ血縁関係・師弟関係でつながる調教師会にとって、実力主義から生まれるそうした不平等は、必ずしも好ましいものではないはずです。春クラシックで唯一、関西で実施される桜花賞だからこそ、ダービー路線とは全く別な開催場で、優勝馬選出作業としての新馬戦が行われているはずです。加えて桜花賞の場合、同じくマイルで実施される朝日杯FS・阪神JFとの関係も重要になり、さらには、後発のNHKマイルCとの関係も無視できません。

 このように、2・3歳戦における新馬戦の重要性は非常に大きいのです。だからこそ、新馬戦規定が変更された03〜04年シーズンは変則的なクラシック馬が続出しました。2歳戦は旧ルールの新馬戦、明け3歳戦は新ルールの新馬戦という状況では、番組本来の目的が達成するはずがありません。関西未経験の桜花賞馬ダンスインザムード、芝未勝利の皐月賞馬ダイワメジャー、短距離未経験のNHKマイルC馬キングカメハメハ。そしてダービーは、クラシックトライアルや皐月賞を完全に無視したキングカメハメハが制しました。同馬の能力がどうであれ、ダービー馬を決める為に工夫された競馬番組が全く機能していない事は明らかです。

 そもそも日本中央競馬会は、全国各地で別々に開催されていた競馬を統合したものですが、今でも各競馬場には様々な関係者が生活のベースを置いています。施設管理、トレセン、牧場、金融機関、税務、農水省、都道府県、市町村、そして何より大切な地元の馬主と競馬ファン。
 仮に、レベルの低い開催場があったとしても、その開催が廃れてしまう事は絶対に許されない。だからこそ、例えばダービー馬を輩出できない開催場には、ダービーよりも低レベルだが、ダービーと同じ「3歳G1レース」が用意されていると私は思っています。


初勝利 桜花賞馬 初勝利 ダービー馬
81 KA 函館 ブロケード 札幌 カツトップエース
82 BA 札幌 リーゼングロス 中京 バンブーアトラス
83 CB 函館 シャダイソフィア 東京 ミスターシービー
84 SR 阪神 ダイアナソロン 新潟 シンボリルドルフ
85 SS 函館 エルプス 中山 シリウスシンボリ
86 DG 東京 メジロラモーヌ 函館 ダイナガリバー
87 MN 1回函館2 マックスビューティ 1回函館2 メリーナイス
88 ST 2回京都6 アラホウトク 1回函館1 サクラチヨノオー
89 WC 1回札幌8 シャダイカグラ 1回中山8 ウィナーズサークル
90 IF 5回阪神3 アグネスフローラ 4回東京6 アイネスフウジン
91 TO 5回京都3 シスタートウショウ 4回中京3 トウカイテイオー
92 MB 2回札幌2 ニシノフラワー 3回中京1 ミホノブルボン
93 WT 1回京都8 ベガ 2回函館4 ウイニングチケット
94 NB −−−− オグリローマン 1回函館8 ナリタブライアン
95 TA 1回京都3 ワンダーパヒューム 3回中京6 タヤスツヨシ
96 FC 7回京都4 ファイトガリバー 1回京都1 フサイチコンコルド
97 SB 5回阪神1 キョウエイマーチ 5回東京1 サニーブライアン
98 SW 5回阪神2 ファレノプシス 5回阪神1 スペシャルウィーク
99 AV 5回京都2 プリモディーネ −−−− アドマイヤベガ
00 AF 1回函館1 チアズグレイス 2回京都4 アグネスフライト
01 JP 1回札幌1 テイエムオーシャン 2回札幌1 ジャングルポケット
02 TG −−−− アローキャリー 5回阪神7 タニノギムレット
03 NU 5回阪神1 スティルインラブ 5回京都3 ネオユニヴァース
04 KK 6回中山5 ダンスインザムード 5回京都4 キングカメハメハ
05 DI 4回京都3 ラインクラフト 5回阪神6 ディープインパクト
06 MS 2回中山4 キストゥヘヴン 3回小倉8 メイショウサムソン